2026.06.23

2026年3月10日(火)〜4月10日(金)まで募集を行った「NEW AIR 2026」には、アジア各地で活動する作家の皆さまから多数のご応募をいただきました。ご応募いただいた皆さま、そして本プログラムにご関心をお寄せいただいた皆さまに、心より御礼申し上げます。
日本国外のアジアを拠点に活動する、あるいはアジアにルーツを持つ作家を対象とした本AIRプログラムには、東アジア、東南アジア、南アジア、西アジア/中東、中央アジアといった幅広い地域から応募が寄せられ、応募総数は195件となりました。
その中には、自国を離れて活動する作家や、複数の国や地域を行き来しながら制作を行う作家も数多く見られました。今回の公募を通じて、現在の「アジア」という言葉が必ずしも単一の文化圏や地域を指すものではなく、多様な背景や移動のあり方、芸術実践を含む枠組みであることを示していました。
このたび、審査員による選考を経て、滞在制作を行う2名の作家を選出いたしましたので、以下の通り発表いたします。
あわせて、各審査員によるコメントも掲載しておりますので、ぜひご覧ください。
なお、選出作家2名による公開制作を【2026年9月3日(木)〜9月9日(水)】、成果発表展を【2026年9月11日(金)〜9月13日(日)】に開催予定です。
詳細については後日あらためてお知らせいたします。
NEW AIR 2026で選出された作家たちが、横浜での滞在制作を通してどのような表現を生み出すのか、ご期待ください。
選出作家2名は2026年7月から9月まで横浜に滞在し、リサーチと制作を行います。

ヴァニ・ブーシャン(1998年、ニューデリー生まれ)は、ニューヨークを拠点に活動する写真家です。イェール大学芸術学部(Yale School of Art)にて写真分野の美術学修士(MFA)を取得し、2024–2025年度にはイェール大学のCenter for Collaborative Arts and Media(CCAM)フェローを務めました。これまでに、Webber Gallery(ロサンゼルス)、Gladstone Gallery(ニューヨーク)、Green Hall Gallery(ニューヘイブン)、Khoj Studios(ニューデリー)、インド国立近代美術館(National Gallery of Modern Art、ニューデリー)などで作品を発表しています。2025年にはジョン・ファーガソン・ウィアー賞(John Ferguson Weir Award)を受賞し、2024年にはアリス・キンボール・イングリッシュ・トラベル・フェローシップ(Alice Kimball English Travel Fellowship)に選出されました。彼女の実践は写真専門誌『Aperture』でも紹介されており、2025年にはクリエイティブメディア「It’s Nice That」が選ぶ注目アーティストリスト「Ones to Watch」に選出されています。



リム・ソクチャンリナは、写真、映像、インスタレーション、パフォーマンスを用いたドキュメンタリーおよびコンセプチュアルな実践を横断的に展開しています。多様な表現手法を通じて、カンボジアにおける社会的、政治的、地政学的、経済的、文化的、環境的な変化と、それらがグローバルな文脈とどのように結びついているのかを考察しています。また、権力、経済、歴史が私たちの日常生活や現代社会にどのような影響を及ぼしているのかにも注目しています。彼の作品は、リサーチを基盤としながら、現在を形づくる歴史を発見し、読み解き、記録すること、そして過去から学ぶことで未来を想像することを試みています。また、リム・ソクチャンリナは2007年から2024年までアーティスト・コレクティブ「Stiev Selapak」のメンバーとして活動し、2010年から2024年にかけて、カンボジアの現代美術の発展に長年取り組んできたアートスペース「Sa Sa Art Projects」の立ち上げ及び運営メンバーとして精力的に活動してきました。現在は、コレクティブの活動を通じて、教育プログラムや新たなアートプロジェクトの立ち上げに取り組み、批評的な視点を持ったアートコミュニティの形成に対する支援を続けています。また、直近3年間はSa Sa Art Projectsにてコンテンポラリーフォトグラフィーという分野の指導も行っています。


かつての福岡アジア美術館のトリエンナーレ、また作家を選考する東京での審査には長年かかわってきているが、アジアにフォーカスした審査は久しぶりで、とても新鮮だった。
Art Center NEWのスタッフの方々が絞ったリストをいただき、各10枚ほどの応募シート、ポートフォリオや推薦状などを、英語のために大変ではあったものの、興味深く読んだ。NEW AIR 2026の応募要項が比較的自由なせいか、リサーチベースのエンゲージド・アート系に限らず、舞踊、音楽、食物やレシピ関連など広いジャンルの参加者からのアプライがあり、学校を出たての新人も目立った。
近年、日本を訪れたいという海外の人の数が増加しており、応募者の中には、来日の熱意を示し、来てからリサーチをしてテーマを決めたいという人たちもいた。長期レジデンスならともかく、短期のNEW AIRの滞在には、これはやや難しいだろう。
滞在中に何を調べて自らの作品に生かす予定なのか。とりわけ滞在場所のある黄金町、拠点の横浜市、そして神奈川県の特質などを考えることも大事だ。例えば今回、選抜されたカンボジアのLim Sokchanlina氏は、以前からアジアにおけるカンボジア移民の状況を調べ、各自の願いを聞き、本のような作品を制作してきた。中国出身者が最大数いるのは、人口最多の東京だが、神奈川県には日本で一番カンボジア移民が多いという。こうした場の特徴から、Sokchanlina氏のテーマがこの地にマッチしていることが分かる。しかも去年、日本政府は移民に3千万円の壁を設けた。他民族との共生を積極的に推進してきた横浜市は、往年の移民の家族までも排除しかねないこのとんでもなく厳しい国の政策に、どんな対応を考えているのか。彼のリサーチの過程でそれも明らかになるかもしれない。
また募集要項には、コミュニティとの協働をレジデンスの要素に取り入れて欲しいという要望がある。海景やシティ・スケープにフォーカスし、見ることとイメージの真実を問いかけ、虚実の狭間で独自な写真手法を駆使してきたインドのVani Bhushan氏は、横浜の劇団とコレボレーションしつつ、団員たちに、何らかの歴史・社会的な情景を演じてもらい、それを撮影するという提案をした。今回、彼女も選抜されたので、通常はヴィジュアル・アートの美術家たちのコミュニティが主となる場所だが、Bhushan氏の試みが実現すれば、演劇のコミュニティへも今後、Art Center NEWの活動が広がりを持つようになるに違いない。
今回、Art Center NEWがアジアのアーティストを対象にレジデンス・プログラムを立ち上げるということで、たいへんワクワクした気持ちでNEW AIRの審査に臨みました。実際、アジア各地から届いたポートフォリオとプロジェクトはどれも魅力的で、審査は刺激的であると同時に私の頭をたいへん悩ませることになりました。そこで私はひとつの審査基準を自分に課すことにしました。それぞれのアーティストがどのようなナラティヴを作品として構築し(あるいは解体し)、どのようにそのナラティヴを私たちと共有するのかという点への着目です。審査にあたって考慮すべき点は多々ありましたが、アーティストの作品そのものといかに向き合うかということを重視したかったからです。もちろんこれは私の個人的な審査基準です。ちなみにここでいうナラティヴとは作品に関わる様々な事物や事象を作品において配置する技法と捉えています。そうするとそれぞれのアーティストの活動が様々なナラティヴの形として浮かび上がってきました。
そしてそんななかから今回は、インドのVani BhushanさんとカンボジアのLim Sokchanlinaさんがレジデンス・アーティストとして選出されました。Vani Bhushanさんは、従来のフォトジャーナリズムを、まなざしをめぐるひとつのナラティブとして批判的に解体し、それを別のかたちで演じ直すことで今度は私たちのまなざしを瞬く間に宙づりにするような知略に富んだ力強い作品を制作しています。Lim Sokchanlinaさんは参与観察を通してある社会的状況に置かれた人々、あるいはその社会的状況そのものにおける人々や事象の配置に関心を抱いてきたアーティストです。彼の作品においてはナラティブが構築されつつも揺蕩っていくような興味深い瞬間があります。これら二人のアーティストが横浜でどのような作品を制作するのか今から興味がつきません。それと同時に、応募していただいた他の作家の作品やプロジェクトもたいへん魅力的だったことも確かです。今回のNEW AIRに応募していただいたすべてのアーティストの作品にきっと世界のどこかでまた巡り会えるような気がしてなりません。そんな日が近い将来に訪れることを楽しみにしています。それからArt Center NEWの清田菜央さんには審査過程でたいへんお世話になりました。ありがとうございます!!
アジア地域在住者に限定した今回の公募は、キャリアのある作家から若手作家まで幅広い層から応募があり、滞在中のプランも具体的で魅力的なものが多数あった。断続的ではあるが、私は20年に渡ってAIRに関わってきた。その感覚からすると、一昔前はアジアのみからこれだけ多様な作家の応募がある状況は想像できなかった。アジアにルーツがあったとしても、欧米を拠点とする作家が以前は多い印象があったが、この十数年で大きく状況が変わり、アジア各地を拠点とする作家の層が格段に厚くなり、また日本のAIRにも積極的に参加する意識をもつ人が増大したことは特筆すべきことだろう。ただし、南アジアからの応募はまだ限られているし、中央アジアや西アジアからの応募はごく少数で、東アジアや東南アジアの作家が大多数を占めているというのが現状だ。
結果的に、本AIRでは最終的にインドのデリーを拠点とするVani Bhushanとカンボジアのプノンペンを拠点とするLim Sokchanlinaが選出された。 Bhushanは写真や印刷物を主な表現媒体とするアーティストで、フォトジャーナリズムに強い関心を寄せる。ただし素朴に写真によって真実を捉えるというような態度ではなく、写真が孕む演劇性や虚構性にも着目し、AIなどの発展によりフォトジャーナリズムのあり方が問われる現在に鋭く切り込む態度が魅力的であった。今回の滞在では横浜の地元劇団との協働を模索しており、彼女のこれまでの実践に裏付けられた活動内容で、実りある滞在になることが期待される。
Sokchanlinaは、自らの出自であるカンボジアについてグローバルな文脈のなかで地政学・社会・政治・環境・文化など多方面から探求するプロジェクトをこれまで実践してきた。本AIRでは、横浜にかつて難民として辿り着き定着した人々や昨今移民としてカンボジアから横浜に至った人々に関してリサーチを進めていく。これまでの活動の延長線上にある展開には作家の一環した態度が感じられ、中堅に差し掛かりつつあるキャリアにおいて、本滞在制作が作家の活動をさらに深化させるだろうと予期している。
今回選出はできなかったが、個人的にぜひ横浜でのAIRを実現してほしいと感じる作家は他にも多数いたため、別の機会に再度チャレンジしてもらえることを強く願う。