長濵よし野レクチャー「知っている(気がする)ことをあなたに話してみる」受講レポート

長濵よし野(ながはま・よしの)

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📝in the blue shirt、okadada、長濵よし野「想像の体操~わたしの地層を考える~」受講レポート/つやちゃん

 連続講座「横浜✧カルチャーセンター」、長濵よし野さんが講師の第5回。今回は宿題発表回。

 「わたしの地層」について考えた前回の講座で長濵さんとゲストのokadadaさん・有村崚さんが話したように、「自分を構成してきたもの」と「この次に触れたいと思っているもの」について、今回はみんなが話す番です。いまの自分の輪郭はどんな作品や人物に影響されてできてきたのか。長濵さんはその遍歴をボルダリングの〈ルート〉に喩えます。これまでにつかんできた石について、そして〈次の石〉がいまどう見えているのかについて、事前にDiscordに提出したリストをもとに語る会。楕円形に並べられた椅子に座って、お互いの身振りと声を感じながら、順番にマイクをリレーします。

受講生たちの様子の写真
受講生たちの様子。

 もやがかかった記憶のなかから引きだされたものから、つい最近衝撃を受けたものまで。強く自分のスタンスをフィクスしたものから、「まだ観てない」ものまで。さまざまなジャンルの本、映画、音楽、マンガ、ゲーム、写真、記事、文化の名前が挙げられます。リストの内容はもちろんひとつも被りなし。その場で慎重に言葉を選びながら話したり、事前に文章を練ってきていたり、その語りぶりにも個性が表われました。みんな話しだすときは、「緊張しています」と言っていたけれど、その声には徐々に熱がこもっていきます。

リストにいれたものがどんなものなのかと同時に、それとどのようにして出会ったか、それと出会って自分は何の端緒をつかんだのかについて語っていきます。一人ひとりが比べようもなく違うルートを辿っていることがわかって印象的でした。それまで知らなかった誰かと出会うって、ほんとうにたいへんなことですね。古今東西の作品名が飛び交う静かな嵐のなかで、輪を組んだ面々がどんなことを考えているひとなのか、互いに徐々に伝わっていきます。 

この宿題にあらかじめある補助線は「いまの自分」だけ。すぐにリストアップできたひとも、迷いながら決めたひとも、しゃべりながら探っていくひともいます。

いろんなことに興味がある自分はいったい「何のひと」なんだろう?まだ定まっていないぼやぼやした自分の輪郭をそれでも整えたかもしれないものとは?好きなものをどう語ることができる?もしかして好きなだけでは済まされないかも?これからどうしていこうかな?

ひとりひとりにマイクが渡っていく。

派生する問いは一人ひとり違います。むしろリストの中身よりも、ばらばらにならざるを得ないそれらを結び付けながら抽象化して自分の問題意識について話す行為自体がすでに批評的、と長濵さん。表現にはいろんな意味がありさまざまな意図が込められているけれど、自分の受け取り方であっているのか、どうしても気になってしまうというトピックもたびたび浮上しました。長濵さんは「散逸している知識を体系化していく力が重要」であるとも述べます。それはひとつの〈正解〉にたどりつく力よりも、むしろ自分なりの〈問い〉や〈切り口〉や〈軸〉をつくる力なのかもしれません。

 このレポートのためにメモをとりながら輪の外で聞いていた僕には、自分や世界のあいまいさ、意味って何だろうという問題がしばしば語られていたように思います。あいまいさや矛盾はつねに問題ですが、それは解決するべき問題だということではなく、いかにそのあいまいさをそのままにできるかという問題なのだとみんなの声はすでに語っていたように思います。全10回の講座も折り返し。この「横浜✧カルチャーセンター」での経験も〈ルート〉の石のひとつになっていきます。

単にどんなものが好きか語るのでも、プレゼンテーションやおすすめコンテンツ紹介でもなく、むしろ自分自身とその価値観がつくられた契機について語ること。それはけっこうな自己開示で、場の安全性や安心感が求められますが、会のあとには「この場は大丈夫、安全だという感じがした」との声が聞かれました。同質性の高い場では、こうしたリストアップにしばしば自分を奥深く見せようとする自意識が働きますが、蛇行しつつ自分のスタイルを探したり、真摯にこれからの自分を見つめようとしたりする言葉をのびのびと発することができたのは、問題意識の近さ遠さとは別に、もっと根本的に他者同士として集まっのだということを確認しあいながら進む会だったからなのではないでしょうか。

有志のメンバーはゆくゆくZINEをつくって10月に開催されるNEWのZINEフェアに出展しようということに。今後の展開が楽しみです。

さて、あなたはどんなものに自分を作られましたか?

✧執筆者プロフィール

瀬口真司

瀬口真司(せぐち・まさし)
歌人・文学研究者・批評家。1994年、大分県宇佐市生まれ。立教大学大学院文学研究科博士課程後期課程在学中。第3回笹井宏之賞大森静佳賞。第5回笹井宏之賞大賞。歌集『BEAM』(書肆侃侃房、2025年)。